閉合トラバース測量とは?初心者向けに計算手順をわかりやすく解説
測量の現場に出ると、「トラバー」(トラバースを略したもの)という言葉を聞くことがあります。
測量を学び始めたばかりの方にとっては、少し難しく感じる内容かもしれません。
角度、距離、方向角、X座標、Y座標、閉合誤差など、いくつもの専門用語が出てくるからです。
特に「閉合トラバース測量」は、計算の流れを知らないと、何をしているのか分かりにくいと思います。
ただ、順番に見ていくと、やっていることはそれほど複雑ではありません。
閉合トラバース測量を簡単に言うと、測点を順番に測量していき、最後に出発点へ戻ってくる測量です。
出発点に戻ることで、測量結果にどれくらい誤差があるのかを確認できます。
ここで、測量の参考書や教科書をみると、南北の動きを「緯距(いんきょ)」、東西の動きを「経距(けいきょ)」と呼んでいます 。一方、実際の土木現場では、緯度・経度を使って施工位置を管理するよりも、平面直角座標のX座標・Y座標を使うことがほとんどです。
この記事では、閉合トラバース測量の基本、平面直角座標の考え方、方向角の求め方、実際の計算の流れを、現場施工管理目線でわかりやすく解説します。
現場で行う測量と測量会社による測量の違い
最初に、現場施工のために行う測量と、測量会社が行う測量では、目的や求められる精度が異なることを押さえておきましょう。
現場施工で行う測量は、構造物の位置出し、丁張の設置、出来形の確認など、実際の施工を進めるために行う測量です。
一方で、測量会社が行う測量は、基準点の設置や地形測量など、位置の基準となる成果を作成することを目的とする場合があります。
測量の業務には、資格や各種の規程が関係します。
また、測量の目的に応じて、使用する測量機械の性能や、確認すべき精度も変わります。
そのため、公共座標に基づく基準点を現場付近に新たに設置したい場合や、高い精度が必要な測量を行う場合は、測量会社へ依頼することをおすすめします。
施工管理を行う立場としては、測量会社が設置した基準点を正しく引き継ぎ、その座標をもとに現場内の位置出しや確認測量を行うことが大切です。
教科書測量と現場測量の違い
| 項目 | 教科書での説明 | 建設現場での考え方 |
| 主な目的 | 計算方法を学ぶ | 施工に使う座標を求める |
| 座標の考え方 | 緯距・経距で説明されることが多い | 平面直角座標のX・Yで管理する |
| 角度の表現 | 方位角として説明されることが多い | 方向角として考える |
| 最初の方向 | 与えられていることが多い | 既知点2点の座標から求める |
| 誤差確認 | 閉合誤差・閉合比を計算する | 許容範囲内か確認し、施工に使えるか判断する |
| 注意点 | 計算手順を間違えないこと | 点名、後視点、XY入力、器械高などのミスに注意する |
トラバース測量(多角測量)は現場の骨組を作る測量
トラバース測量は、現場全体の位置を決めるための骨組を作る測量です。
建物や道路を作るとき、いきなり細かい部分を測るわけではありません。
まずは、現場全体の基準となる点を作ります。この基準となる点があることで、構造物の位置、道路の中心線、境界、丁張などを正しく出すことができます。
イメージとしては、恐竜の骨格を組み立てるようなものです。恐竜の大きさや形を知るには、まず骨格が必要です。骨格がしっかりしていれば、その上に肉付けして、全体の形を再現できます。
測量も同じです。現場全体の骨組となる測点を先に作ることで、その後の細かい測量や施工管理がしやすくなります。この骨組を作るための測量が、トラバース測量です。

閉合トラバース測量とは
そもそもトラバース測量とは、測量したい区域全体を覆う「骨組(基準点)」を作るための測量です。
多角測量とも言います。
例えば、T-1から出発して、1・2・3・4・5と測量し、最後にT-1へ戻るような形です。
図で見ると、多角形のような形になります。

このように、ぐるっと一周して元の点に戻る測量を「閉合トラバース測量」といいます。
「閉合」とは、「最後に閉じる」という意味です。
現場を一周して、最後に出発点へ戻るため、測量結果が正しいかどうかを確認しやすい特徴があります。
閉合トラバース測量では、まず測った角度の合計を確認します。
次に、調整した角度を使って各測線の方向角を求めます。
方向角が分かると、測った距離をX方向とY方向の移動量に分けることができます。
最後に、出発点へ戻ったときのX方向とY方向のズレを確認します。
このズレが許容範囲内であれば、各測線に誤差を配分して、最終的な座標を求めます。
つまり、閉合トラバース測量は「角度を整える」「方向を決める」「距離をXYに分ける」「最後にズレを確認する」という流れで進める測量計算です。
閉合トラバース測量のメリット
閉合トラバース測量の大きなメリットは、測量結果の誤差を自分で確認できることです。
出発点から順番に測量して、最後に出発点へ戻る場合、本来であれば計算結果は最初の位置にぴったり戻るはずです。しかし、実際の測量では、わずかな誤差が必ず発生します。
- 角度を測るときの誤差
- 距離を測るときの誤差
- 機械を据え付けるときの誤差
- プリズムを立てるときの誤差
このような小さな誤差が積み重なると、最後に出発点へ戻ったときに少しズレます。
このズレを確認できるのが、閉合トラバース測量の大きな特徴です。
測量をぐるっと一周して、最後に出発点へ戻ることで、「測量結果がきちんと閉じているか」を確認できます。
もし大きくズレていれば、どこかに観測ミス、入力ミス、点名の取り違えなどがある可能性があります。
教科書の閉合トラバース計算は「最初の方位角が分かっている」ことを前提にしている場合が多い
測量の教科書では、図のように既知点が1点あり、方位角が与えられてる計算例が多いです。
T-1だけでも、まったく測量できないわけではありません。
T-1を基準にして、任意の方向を90°として測れば、1・2・3・4・5の相対的な位置は求められます。
これは、現場内座標(ローカル座標)のようなものです。
例えば、
T-1を X=100.000、Y=100.000
方位角(方向角)を70°
として計算すれば、1・2・3・4・5の座標を出すことはできます。
ただし、これはあくまで仮座標です。平面直角座標のように、公共座標やGNSS座標と正しくつながった座標ではありません。
つまり、T-1を中心にして、トラバース全体の形は作れます。
しかし、その形が北に対してどちらを向いているのかが決まりません。
そのため、正確な平面直角座標にするには、次のどちらかが必要です。
1つ目は、T-1と1(又は5)のように、座標が分かっている既知点が2点あることです。
2つ目は、T-1の座標と他の既知点を使って、T-1から1方向の方向角が計算できることです。

閉合トラバース計算の6ステップ
この計算では、平面直角座標を使って計算します。
現場で観測した水平角度と水平距離から、各測点の座標(X・Y)を求めるまでの流れを、次の6つのステップで解説します。
- ステップ1:観測角の点検と調整
- ステップ2:方向角の計算
- ステップ3:X増減量(緯距)とY増減量(経距)の計算
- ステップ4:閉合差と閉合比の確認
- ステップ5:X方向・Y方向の誤差調整
- ステップ6:各測点の座標(X・Y)の決定

計算はExcelシートで行いました。
ピンク色のセルに測量した数値を入力すると、誤差を調整したXY座標を計算してくれます。

ステップ1 観測角の点検と調整
観測角(内角)の点検
閉合トラバース測量では、まず観測した内角の合計を確認します。
多角形の内角の合計は、次の式で求めることができます。
内角の合計 = (n − 2)× 180°
(nは角の数)
例えば、5角形の場合は次のようになります。
(5 − 2)× 180° = 540°
つまり、5角形の内角の合計は、理論上540°になります。

実際の測量では、各測点で角度を観測します。その観測角をすべて足したときに、理論上の角度と一致するか確認します。
ただし、現場で測った角度が完全に一致することは、ほとんどありません。
例えば、5角形の閉合トラバースで、観測角の合計が次のようになったとします。
- 理論上の内角合計:540°00′00″
- 実際の観測角合計:539°59′50″

この場合、理論値より 10″不足 しています。
10″とは、10秒のことです。
角度の単位には、度・分・秒があります。1度は60分、1分は60秒です。
この例では、観測角の合計が理論値より10秒小さいということになります。
測角許容誤差
- 平坦地(30″×√n):5角形の場合67″
- 農地・丘陵地(60″×√n):5角形の場合134″
- 山林・原野(90″×√n):5角形の場合201″
観測角を調整する
観測角に10″の不足がある場合、その誤差を各角度に配分します。
今回の例では5角形なので、角は5つあります。
10″ ÷ 5 = 2″
つまり、各角度に2″ずつ足して調整します。
これにより、調整後の観測角の合計が理論値の540°になります。

この作業は、最初の戸締り確認のようなものです。角度の合計が合っていないまま次の計算に進むと、その後の座標計算にも影響します。そのため、最初に角度のズレを確認して、必要に応じて調整します。

ステップ2 方向角の計算
次に、各測線の方向角を計算します。
出発点での基準方向をもとに、調整した内角を利用して、各測線がX軸から右回りに何度傾いているか(方向角)を計算します。
2つの既知点から基準方向角を計算します。

「北」の基準の呼び方(方位角と方向角)
教科書では、最初の基準となる角度を「方位角(ほういかく)」と習うことが多いです。これは「真北(地球の北極)」や「磁北(コンパスの北)」を基準(0度)とした絶対的な方角のことです。
しかし実際の現場では、地域ごとに平らな面を想定した「平面直角座標系」の縦軸(X軸)を北(0度)と見立てて計算する「方向角(ほうこうかく)」を使うのが一般的です。

各測線の方向角を計算
方向角=180°-調整内角+「一つ前の測線の方向角」
Excelシートでは、調整内角の計算と一緒に方向角も計算するように作りました。

図形の計算イメージとしては下の図のようになります。

ステップ3 X増減量とY増減量の計算
方向角が分かったら、次にX増減量とY増減量を計算します。
測点と測点の間の距離は、現場では斜め方向の距離として測ります。
しかし、座標を求めるためには、その斜めの距離を縦方向と横方向に分ける必要があります。
X増減量 = 距離 × cos 方向角(縦方向の移動量)
Y増減量 = 距離 × sin 方向角(横方向の移動量)
三角関数と聞くと難しく感じるかもしれませんが、ここでは「斜めの距離を縦方向と横方向に分けるための計算」と考えれば大丈夫です。
例えば、斜めに100m進んだとしても、その100mすべてが北方向に進んだわけではありません。
北方向にも進み、東方向にも進んでいます。その内訳を出すのが、X増減量とY増減量の計算です。

位置の表し方(緯距・経距とXY座標)
トラバース計算のステップで、斜めの距離を縦横に分解する際、教科書では南北の動きを「緯距(いんきょ)」、東西の動きを「経距(けいきょ)」と呼びます。
一方、実際の現場や図面作成では、これを「平面直角座標のX・Y」に置き換えて表します。
ここで一番注意したいのが、測量の世界では数学のグラフと縦横が逆になることです!
現場の X軸 = 教科書の 緯距(南北・縦方向の動き)
現場の Y軸 = 教科書の 経距(東西・横方向の動き)
図面を描く際、「X座標が縦の長さ」になることを覚えておくと、現場での混乱を防げます。

ステップ4 閉合差の確認
閉合トラバース測量では、最後に出発点へ戻ります。
そのため、すべてのX増減量(緯距)を足すと、本来は0になるはずです。
そして、すべてのY増減量(経距)を足しても、本来は0になるはずです。
なぜなら、一周して元の位置に戻るからです。北へ進んだ分と南へ進んだ分、東へ進んだ分と西へ進んだ分が最終的に打ち消し合うため、合計は0になるはずです。
しかし、実際の測量では必ず誤差があります。そのため、X座標とY座標の合計が完全に0にはなりません。
縦横のズレから三平方の定理を使って全体のズレ(閉合差)を出し、許容範囲内かチェックします。

例えば、計算の結果が次のようになったとします。
- X増減量の合計:−0.008762m
- Y増減量の合計:−0.020473m
この場合、縦方向に-0.009m、横方向に-0.020mのズレがあるということになります。
閉合差の計算
緯距と経距のズレが分かったら、閉合差を計算します。
閉合差とは、出発点に戻ったときの全体のズレです。縦方向のズレと横方向のズレを使って、三平方の定理で求めます。
閉合差 = √{(緯距のズレ)² + (経距のズレ)²}
今回の例では次のようになります。
閉合差 = √{(−0.009)² + (−0.020)²}≒ 0.022m
つまり、最後に出発点へ戻ったときに、計算上は約2.2cmズレているということです。

ここで大切なのは、閉合誤差があること自体がすぐに悪いわけではないということです。測量には多少の誤差がつきものです。
大切なのは、その誤差が許容範囲内かどうかを確認することです。
閉合比を確認する
閉合差が分かったら、次に閉合比を確認します。
閉合比とは、測量した全体の距離に対して、閉合差がどれくらい小さいかを表す数値です。
例えば、トラバース全体の距離が313.372mだったとします。閉合差が0.022mだった場合は、次のようになります。
閉合比 ≒ 1/14000
これは、約14000m測って1mズレる程度の精度という見方ができます。
実務では、測量の目的や基準によって許容される精度が変わります。そのため、閉合比が許容範囲内かどうかを確認する必要があります。
もし閉合誤差が大きい場合は、そのまま計算を進めてはいけません。観測ミス、入力ミス、点名の取り違え、器械の据え付けミスなどを確認します。
許容範囲
- 市街地など平坦地:1/5000~1/20000
- 山間部など測量が困難な場所:1/1000
- 普通の地形、緩やかな場所:1/3000~1/5000
ステップ5 X方向・Y方向の誤差調整
閉合差が許容範囲内であれば、次にX方向・Y方向の誤差を調整します。
これは、ズレを各測線に配分して、最終的にきちんと閉じるようにする作業です。
ここには現場に応じた2つの法則があり、この補正によって、Xの合計とYの合計が0になるように調整します。

コンパス法則
コンパス法則とは、測線の長さに比例して誤差を配分する方法です。
長い測線ほど誤差の影響を受けやすいと考えて、長い測線には大きめに、短い測線には小さめに補正量を配分します。
トランシット法則
誤差を「緯距・経距の大きさ」に比例して分配します。起伏の大きい山地など、角度より距離の測量精度が劣る(巻き尺を使うなど)場合に適用されます。
誤差の調整方法(コンパス法則が圧倒的主流!)
昔は、角度は機械で正確に測れても、距離は「巻き尺」で測るため誤差が出やすく、トランシット法則が使われる現場もありました。
しかし今の建設現場では、角度も距離も同時にレーザーで超高精度に測れる「トータルステーション(光波測距儀)」という最強の武器を使います。
角度と距離の精度が同レベルになるため、現代の現場のほとんどは「コンパス法則」を使って誤差を調整しています。
ステップ6 XY座標(合緯距と合経距)の決定
X座標とY座標の調整が終わったら、最後に各測点の座標を求めます。
出発点の座標を基準にして、調整後のX座標とY座標を順番に足していきます。
例えば、出発点T-1をX=44.238、Y=27.287とします。
- T-1のXY座標に「2」のXY増減量と「2」XY補正量を足す →「 2」の座標が決まる
- 「2」のXY座標に「3」のXY増減量と「3」XY補正量を足す →「 3」の座標が決まる

このように順番に足していくことで、すべての測点の座標を求めます。最後に出発点へ戻ったとき、座標がX=0、Y=0に戻れば、計算はきちんと閉じたことになります。
これで閉合トラバース測量の計算は完了です。

現場で注意したいこと
閉合トラバース測量では、計算だけでなく、現場での確認も大切です。特に注意したいのは次の点です。
点名の取り違え
A点・B点・C点のように名前を付けていても、現場で器械点や後視点を間違えると、計算結果が大きくズレます。
角度の単位ミス
度・分・秒の入力を間違えると、計算結果に影響します。
XY座標の入力間違い
X座標とY座標を入れ替えると、座標計算が全体でズレます。
閉合差が大きい場合は、すぐに調整で合わせようとせず、まず原因を確認します。
測量のミスを計算で無理に合わせてしまうと、後の施工で大きな問題につながることがあります。
施工管理技術者で設置した基準点は、その現場だけで使用しましょう。現場完成後はほかの現場で我々が設置した基準点が使われない様に撤去しましょう。
まとめ
閉合トラバース測量とは、測点を順番に測量していき、最後に出発点へ戻る測量です。
現場全体の骨組を作るために使われ、出発点へ戻ることで測量結果の誤差を確認できます。
計算の流れをまとめると、次のようになります。
- 観測角を点検する
- 観測角を調整する
- 方向角を求める
- X座標とY座標を計算する
- 閉合差を求める
- 閉合比を確認する
- X座標とY座標を調整する
- 各測点の座標を求める
閉合トラバース測量は、最初は難しく感じるかもしれません。しかし、やっていることは意外と単純です。
- 角度と距離を測る
- 測線の向きを求める
- 斜めの距離を縦と横に分ける
- 最後に出発点へ戻るか確認する
この流れを押さえると、閉合トラバース測量の考え方が見えてきます。
初心者の方は、まず計算式を丸暗記するよりも、「なぜその計算をするのか」を意識するのが大切です。
閉合トラバース測量は、現場の骨組を作り、最後に戸締りを確認するような測量です。このイメージで考えると、少しずつ内容が頭に入りやすくなると思います。
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